砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「どういたしまして。
 ねえ、雅之。都随一の凄腕と称される陰陽師サマが可愛い同居人に身を守るすべをただの一つも教えて下さらないの」

 毬は可愛らしく唇を尖らせ、兄の悪戯を母親に告げ口する子供のような口調で雅之を見た。

 独りでは勝てないから、と、雅之を引き込む作戦なのだ。

 唐突に喧嘩の渦中に巻き込まれた雅之は、大人の余裕を覗かせた苦笑を浮かべる。

 龍星は表情を微塵も崩さず酒を煽り、紅い唇を開く。

「一つだけ、取り出して渡せるならとっくにそうしてるよ。
 だから何も分かってないというのだ」

 
 カチンと、また、毬の感情に理性では抗えない怒りの火が灯る。

「そう思うなら、もっと分かりやすく説明してよっ」

 装いの仮面はあっさり剥げ落ち、感情を露にした声をあげた。

 その言葉に龍星の顔にふっと暗い影が過ったのを、雅之は見た。

 直後、御所に居る時のような、ただ綺麗なだけの、つまり一切心の内が覗けないような、完璧な笑顔が龍星を纏う。


 それは、単に美しいだけでなく、痛いほどの何かをも纏っているようで。感情のままに言葉を滑らせてしまった毬の背中にも、ゾクリとした冷たいものが走ったほどだ。