「お前は知らない

 辛くて、苦しくて、人を殺めたくなるこの気持ちを。

 お前は知らない

 ならば、死んでしまえ」


 女の形をしたものの、瞳がますます強い光を帯びる。
 その声は、獣のうなり声のように低くおぞましい。

 息が、苦しい。 
 胸が、痛い。
 身体が重い。

 毬は、じりじりと、後ずさる。

 それはなおも報われない戯言を延々と言いながら、毬のほうへと近づいてくる。

 苦しい。
 頭が痛い。
 声が出ない。

 

 気を失いそうになった毬は、とっさに自分の手のひらで小刀の刃を握り締めた。


「きぃやぁあっ」

 唇をかみ締めて痛みに耐えようとしたが、経験したことのない熱を帯びた痛みに、その努力虚しく悲鳴が漏れた。



 ぽたり、ぽたりと。
 紅い血が床へと滴る。