――御所で龍星と別れた後。
当然の如く右近衛府へと戻った雅之を待っていたのは、少年の域をまだ抜け出ない高階唯亮(たかしなのただあき)だった。
先ほど龍星の計画の中で、「左大臣家に呪詛をかけたのは高階定成である」と耳にしてしまった雅之は、その息子を前にして、一瞬逃げ出したくなったが約束でもあるのでそうはいかない。
「妹が、和子が少し……おかしいんです」
先ほどまでの雑談とは違い、深刻な顔になってで、唯亮少年はそう言った。
「どういう風に?」
「髪を、ばさりと切っていて」
「髪を?出家でも?」
「まさか」
唯亮は目を丸くした。
「違いますよ。
あの……、誰にも言わないでくださいね」
深刻な顔に、雅之は頷くほかなかった。
「和子は常々入内したいと公言しております。
そんな女がある日突然出家など思い立つでしょうか?」
いや、まあ。
思いが強ければ逆にそんな極端なこともあるかもしれない、と、雅之は思ったが、唯亮の真剣な眼差しに負けて、口は挟まなかった。
「しかも」
一度口を閉じて、再び唯亮は口をあけた。
「髪の行方が分からないのです」
「髪の、行方?」
そんなのどこかに捨てたんじゃないか、気に留めることでもないのではないかと、雅之は思うが唯亮は真剣な顔を崩さない。
「その髪があれば、鬘(かつら)でも作って誤魔化せるのに……」
と、訴えるのだ。
当然の如く右近衛府へと戻った雅之を待っていたのは、少年の域をまだ抜け出ない高階唯亮(たかしなのただあき)だった。
先ほど龍星の計画の中で、「左大臣家に呪詛をかけたのは高階定成である」と耳にしてしまった雅之は、その息子を前にして、一瞬逃げ出したくなったが約束でもあるのでそうはいかない。
「妹が、和子が少し……おかしいんです」
先ほどまでの雑談とは違い、深刻な顔になってで、唯亮少年はそう言った。
「どういう風に?」
「髪を、ばさりと切っていて」
「髪を?出家でも?」
「まさか」
唯亮は目を丸くした。
「違いますよ。
あの……、誰にも言わないでくださいね」
深刻な顔に、雅之は頷くほかなかった。
「和子は常々入内したいと公言しております。
そんな女がある日突然出家など思い立つでしょうか?」
いや、まあ。
思いが強ければ逆にそんな極端なこともあるかもしれない、と、雅之は思ったが、唯亮の真剣な眼差しに負けて、口は挟まなかった。
「しかも」
一度口を閉じて、再び唯亮は口をあけた。
「髪の行方が分からないのです」
「髪の、行方?」
そんなのどこかに捨てたんじゃないか、気に留めることでもないのではないかと、雅之は思うが唯亮は真剣な顔を崩さない。
「その髪があれば、鬘(かつら)でも作って誤魔化せるのに……」
と、訴えるのだ。


