砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 龍星は、ぱたん、と、読みかけの書物を閉じた。

「朝もその話はしただろう?」

 自分の口調が説教じみてくるのが気に入らないが仕方が無い。
 毬はぷうと頬を膨らませる。

「聞いたわ。
 だから別方向からお願いしているの。
 守ってとは言わないわ。私が自分で守れる術を教えてと言っているの」

 子供に噛んで含めるような言い方で、毬が言う。
 しかしその瞳は人にお願いをするときのような媚びたものでなく、どちらかといえば上から押し付けるような、命令するようなそんな物言いだった。

「駄目だ」

「どうして?
 不思議の力は陰陽師しか使えないわけ?」

「まぁ、平たく言えばそうなるな」

「じゃあ、私を陰陽師にしてよ」

 龍星は一瞬息を呑んだ。
 そして、気持ちを落ち着けようと、深く息を吐く。

「毬、その力は遊びではない」

 家では決して響かせないような、低い声で龍星が告げる。
 毬はその声にも、厳しい視線にも一切動じずに口を開く。

「分かっているわ。
 私も遊びでお願いしているつもりはないの。
 だって、私も自分の人生が掛かっているのよ。
 真剣に自分を守りたいと考えてはいけないの?」

 龍星は、やれやれと瞳を閉じた。

「俺が守ってやるっていうのが、信用できないの?」

「――そうじゃないけど」

 毬は言葉を濁らせる。

「信用出来ない相手から学べるようなものじゃないよ、陰陽道は」

 龍星はそう言い捨てると、書物を持って立ち上がって自室へと歩き始めた。
 少しきまり悪く俯く毬を、置き去りにして。