無邪気さのかけらを集めて出来たようなその笑顔につられ、そっと、龍星は毬の髪を撫でながら、『本当は13歳だと知らされると、実際そのように見えてくるから不思議なものだ』と、心の中で呟いた。


 しかし、毬がここまで喜んでくれるのなら、唐から帰ってきて間もない知り合いに、半ば強引に譲ってもらった価値があるというものだ。
 お陰で、遣唐使として無事帰ってきたそいつの武勇伝をうんざりするほど聞かされたことも、まぁ、良しとしよう。

 龍星は口許を甘い笑みで彩った。

「唐のものでね、風鐸(ふうたく)と言うのだ」

「ふうたく?」

 表情の効果を狙っているのか、ただの癖なのか、またしても毬は首を傾げて問い直す。

「そう、風鐸。
 魔よけにもなるし、占いも出来るという優れものだ」

「まぁ。
 では、龍がお仕事で使うのね?」

 毬は微塵の疑いもなくそう言った。
 龍星は苦笑を浮かべる。

 毬が自然と自分の身体より相手を気遣うように、龍星もいつの間にか自らの仕事より毬の体調のことばかり考えるようになっていた。

 確かに、仕事に使えなくも無いが。
 まぁ、今のところそんな必要は無さそうだと首を横に振る。

「外に吊るしておくといい。
 風の音がすれば、少しは涼を感じるだろう?」

 風鐸の存在を陰陽師仲間から耳にしたとき、真っ先に龍星の頭に浮かんだのは夏バテで寝込んでいる毬の気晴らしになるのではないか、ということだった。
 占いや魔よけに使えるというのは、その後目にした書物で知った。

「ありがとう!龍。
 そよぐ程度の風の音が耳に出来るなんて、とても風流だわ。素敵!」

 毬は満面の笑みで、嬉しそうに、大切そうに手の中の風鐸を見つめていた。