龍星が退社時刻を早めて家に帰ると、毬は退屈そうにぼんやり庭を眺めていた。

 ……あれを、いつまでも閉じ込めておけるものではないな。

 龍星は苦笑しながら、傍へと寄る。

「ただいま、毬」

 毬はよほど深い考え事でもしていたのだろう。その声で初めて龍星の存在に気づいたようで、弾かれたように顔をあげた。

「あれ?まだ夕刻には早いけど」

 驚く顔を抱き寄せ、唇ごと言葉を奪う。

「連れないこと言わないで。
 素敵なものを手に入れたからすぐに見せたくて」

「なぁに?」

 くるりと、猫の目のようにあっという間に表情が変わる。

 龍星は懐から、あるものを取り出しそっと、毬の手に乗せる。
 ひんやりした青銅製のそれは、ずしりと重い。

「これ、なぁに?」

 モノを見ても尚、用途が分からず毬は首を傾げ上目遣いに龍星を見る。

「なんだと思う?」

 その様子があまりにも可愛いので、龍星は答えを先送りにした。
 うーん、と、毬はそれを手に持つ。

 はじめてみたその青銅製のものは、小型の鐘の形をしていた。
 鈴のようではあるが、それにしては大きい。

 が、大きいといえども鈴の様ではある。

 毬は上側を手に持ち、ゆすってみた。

 カランカラン、と、それは気持ちの良い音を鳴らす。
 毬はにっこり笑った。

 龍星が見たかった、可愛らしくも甘やかで蕩けるような笑顔。

「これ、素敵な音ね」