砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 道剣は、いまや雨を浴びたかのように汗でびしょぬれになったぼろの着物に不快を感じながら、もう一度口を開いた。
 唾液すらなくなって、焼けそうに痛む喉からしゃがれた声を必死に絞り出す。



「たかしなのさだなり殿だ」


 パチン、と、龍星は優雅な手つきで扇子を閉じた。
 途端、大蛇の表情がつまらなさそうに曇る。

 直後、煙のように大蛇は消えていった。



 同時にようやく金縛りが解けた道剣は、何度も瞬きをしながら、はぁはぁと肩で荒い呼吸を繰り返す。

「私は忙しいので、後のことは別のものにお話ください」

 龍星はまるで何もなかったような涼しい顔で、道剣にくるりと背を向けそこから離れて行った。

 もちろん、紙人形を返してはくれない。

 道剣は一生、いつ龍星に殺されるかと怯えながら生きるほかないのかと思うと、後悔のため息をつくほかなかった。

 優雅で美しい都人を装った、アイツは鬼畜生の化身だ!と、道剣は心底思った。
 そうでなければいくらなんでも生身の人間相手に、平然と人を殺そうと出来るわけがない。しかも、男ですら欲情しそうなほどの極上の笑顔を浮かべながら、だ。



 一人残された牢の中で、疲れ切った身体を投げ出した道剣はそっと胸の中だけで毒づいたのだった。