龍星は、毬の長い睫毛や薄く溢れている涙に指を這わせながら、重ね続けている唇から吐き出される甘い声に耳を、心を奪われている。

 どうしようもなく、今すぐここで抱いてしまいたい欲望が喉元まで這い上がっているが、出勤時間は刻一刻と迫っていた。
 初めての交わりが時間がないが故におざなりなものであってはならない、と思う。

 少なくとも、毬に対してはゆっくり時間をかけて関係を持ちたい。


 龍星は諦めをこめた吐息を吐くと、手を止め、長い間貪りあっていた唇を離し、うっとり瞳を閉じている毬の瞼に唇を落とす。すべてが終わったときのような甘い唇付けを改めて最後に彼女の唇に落とし、ゆっくり瞳を細めた。

「今日はどうしても出かけないといけないんだ。
 陰陽法師の取調べに、帝との相談。
 それに噂で聞いたことがある、より強いお守りを探してきてあげる」

「気をつけて行ってきてね。手伝えないのが残念だけど」

 毬は大人びた返事をした。

「本当に。このまま続けられないのが残念だ」

 龍星は言葉尻を奪って、違う意味の台詞に代える。
 さすがに、意味が分からなくはない毬は一瞬頬を朱に染めて、かつて見せたことがないほど色っぽい笑みをその口許に浮かべた。

「いいわよ、今まで龍が待っていてくれたのだから。
 今度は私が待っていてあげる」

 艶っぽい声でいたずらっ子のように囁く毬の瞳は、仔犬の如く好奇心に満ちた色を帯びていた。

 何を、待つのか……
 もしかしたら、この姫には見透かされているのかもしれないな。


 龍星はそんなことをちらと考えたが、決して嫌な気はしなかった。