「龍星、毬は大丈夫か?」

 怖い顔をして黙っている龍星に、雅之が遠慮がちに声を掛けてきた。

「ああ。
 随分取り乱していたが、食事を取ったら眠るよう暗示をかけておいた。
 身体が乗っ取られるなんて詮無いことだな」

 龍星は努めて冷静に言う。

「俺にはよくわからぬが、これは龍星のせいじゃない、だろう?」

 雅之が誠実な瞳で問う。龍星が何を一番気に病むのか、雅之には分かっていた。
 龍星は苦笑する。

「ああ、これは。
 俺のせいではない、な」

 吐き出すように言った。


 ……少なくとも【これは】、俺のせいではない。

 心の中で噛み締める。

 けれども。
 いつか自分のせいで妖(あやかし)の事件に巻き込んでしまわないとも限らない。

 彼女を、本当に大事だと思うならば、そうなってしまう前に、突き放してあげるべきではないだろうか。



 龍星はつい、そう考えてしまうのだ。
 それこそが、毬に対して煮えきれない一番の要因であった。