一方。

 縋り付いてくる毬の身体を無理矢理引き離し、牛車に乗り込んだ龍星の心も揺れていた。


 龍星が今まで自邸に住まわせている毬に手を出さなかったのには、もちろん幾つかの理由がある。


 毬の気持ちに確信が持てなかったから。
 毬に幼さを感じていたから。
 一方的な情熱で、毬の人生を巻き込んではいけないと思ったから。
 
 そして、身分の違いが気になっていたから。

 彼女は左大臣家の姫だ。
 姉の千を見ても分かるとおり、簡単に帝の正妻にまでなれるような家柄の娘なのである。



 しかし、そのようなことはどれも瑣末なことであった。



 一番強い原因は――