毬は出て行く龍星の背中を見送りながらため息をついた。

 唇に、舌に、痺れるような熱い感覚が残っている。


 
……私、何を言い出しちゃったのかしら。

 華が用意してくれた膳を前に、無意識に指先で唇に触れながら毬は記憶をたどっていた。
 といっても、今日の記憶は夕方、龍星の腕の中にいたところからしかないのだけれど。


 今朝までは確かに、姉のためならしばらく御所に入り浸るのも仕方がないと思っていた。
 それで、全てが丸く収まるのであれば、いたしかたないと。

 龍星が心配するのも分かるが、帝も自分の正妻と子供の一大事なのだ。
 他の女性にかまけているような余裕もないだろうと、本気でそう、考えていた。