横柄な言葉と態度に、龍星はため息をつくと書物に顔を戻す。
 周囲の者達が青ざめているが、気にする様子はない。

 帝も、そのような龍星の態度を気にする様子もなく、人払いしてしまった。
 もっとも、他のものは皆、帝に従順なので、文句も言わずに部屋から出て行ってしまった。

「鬼は桜の樹の下に眠っていて、花びらが散る時出てくる、というのは本当か?」

 龍星の態度などお構いなしに、帝は話を始めた。

「そういう鬼もいますし、そうでない鬼もいます」

「つまり、都中の桜を焼き払えば、鬼はいなくなるということになる、ということか?」
 
「いいえ」

 稚拙なやりとりに頭が痛くなってきた龍星は、やむを得ず顔をあげる。

 帝は、龍星の予想をはるかに超えた、深刻な顔で真っ直ぐにこちらを見ていた。


「であれば、どうすれば鬼を退治出来るんだ?千が酷く怯えているのだ。
 桜を見ると眩暈がすると言って」

 千……
 思いがけず出てきた名前に、龍星は眉間に皺を寄せた。

「どちらで鬼に遭われたと?」

「自宅の部屋、もちろん左大臣の屋敷の。
 何度も、ここは安全だと言っているのに……」

――屋敷の桜か!
 

 龍星は立ち上がる。
 そもそも、本日左大臣家にうかがう予定だった。
 時刻が少し早くなっても構うまい。

「分かりました。
 私にお任せ下さい。解決次第、ご報告に伺います」

「よろしく」

 帝はそれで気がおさまったらしく、早くも口元に余裕の笑みを浮かべている。

 龍星はそんな帝には目もくれず、雅之を見た。

「雅之、少し早いが今から出れるか?」

「おお」

 龍星の仕事の邪魔に加担した手前、断りがたい雅之は頷くと丁寧に帝に礼をした後、龍星の後を追って出て行った。