「龍星」

 名前を呼ばれて、我に返った。
 日は既に落ちて、屋敷の外は闇に包まれている。

 帰宅した龍星は、自室で書物を読み耽っていたのだが、いつの間にか考え事をしていたようだ。
 一条戻り橋からの、雅之到着の知らせにも気づかなかった。

「ああ、雅之」

「大丈夫か?ひどく顔色が悪い……」

「残念ながら、あまり、大丈夫とは言いがたいな」

 龍星は疲れた表情そのままに、苦笑を浮かべた。
 雅之はとりあえず、預かった書状を龍星に渡す。

 龍星が飛ばしてきた式の頼みに従って、陰陽博士の賀茂光吉(かものみつよし)から預かったものだ。

「賀茂殿は、何と?」

「『お困りのことがおありでしたら、いつでもご連絡を』と言われていたぞ」

 雅之は、40歳になる光吉の落ち着いた口調を真似て言った。