「龍星、今日はこちらに来ているのだろう」

 書庫で一心不乱に書物を読み漁っていた龍星は、近づいてくる騒々しさに眉を潜めた。
 あの偉そうな態度、横柄なものいい。
 何をとっても気に入らない。

「安倍殿。
 帝がすぐそこまでこられています」

 状況を察しているに違いないのに、書物から目を離さない龍星に困惑を隠さずに、同僚が声をかける。

 今、忙しいと口を開こうとした瞬間。
 部屋に人が入ってきた。

「龍星」

 予想外に自分を呼ぶ声が帝のものではなかったので、驚いて顔を上げた。
 困り顔の雅之がそこにいた。

「……どうした、雅之」

「ほら、雅之が居れば龍星も口を利いてくれる」

 その後ろでは、帝が無邪気に笑っていた。

 今年二十歳になった帝は、まだまだ子どもっぽさが抜けないところがある。龍星は遠慮なく帝を睨みつける。

「雅之も私も業務に追われています。今日のところはお引き取り下さい」

 同僚たちが青ざめているが、知ったことではない。
 皆が寄ってたかって甘やかすから図に乗るのだ。

「何を言う。
 わざわざ私自ら出向いてきたのだから、話を聞いてもらうまではここを動かぬぞ」