砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「それよりも、体調を崩されたと公にし、里帰りあるいはご療養していただいたほうがよろしくはございませんか?
 あの家そのものとご本人に、私なり他の陰陽師なりをつけ、その日が来るまで必ず御守りさせていただきます。
 さすれば、その日が来ましても申し開きも可能でしょう。
 体調を崩していた原因がそれであったとお話なされれば良いことです」

「そんなのつまらないじゃないか。
 何ヶ月も私にひとりで過ごせと?」

 帝はついに本音を漏らす。
 千が入内して以来、帝にとって少なからず楽しい日々が過ごせていたのだ。
 それがまた、白紙に戻ってしまうなど、まだまだ精神的にも幾分幼いところがある帝には耐えがたいことなのであろう。

「申し添えておきますが、いかなる理由があろうとも、彼女は入内などいたしませぬ」

 龍星はきっぱりと言い切った。

「彼女の意思など関係ない。
 なに、こちらからそそのかせば、父親はすぐに頷くさ」

「お断りします」

 龍星の言葉に、帝はあからさまにむっとしてみせる。

「……龍星が断る筋合いはない話だ。
 まだ、露顕(ところあらわし)をしたという話も聞いてない。
 私が本気になれば明日にでも、彼女を側室として迎え入れよう。
 そうだ、どうしても駄目だというならそうするまでさ」

 ――姉妹で同じ男と関係を持つなどと考えるだけでもおぞましいのであるが、この時代には別に特別なことでもなんでもなかった。 
 むしろ。
 出世を虎視眈々と狙っている左大臣にとっては娘が二人も帝の寵愛を受けることは、喜ばしい話である。

 父親の許可さえ取れれば、娘の意見など婚姻には何の関係も無い話だった。