龍星は不意をつかれて、一瞬、身動きが取れなくなる。

 今朝、甘い時間を共有し、わかりあえたと思った直後にこれだ。


「安倍様?」

 帝の勅使が確認する。
 勅使の目の前で押し問答をするわけにもいくまい。

 龍星は何も言わず、視線さえ絡めず牛車に乗り込む。
 毬は丁寧にお辞儀をして、あくまでも一歩引いた態度を崩さず車へと乗り込んだ。

 一緒に暮らし始めてもう数ヶ月が経つ。
 徐々に幼さも消えていき、綺麗な着物で着飾れば、育ちの良い姫にしか見えない優雅さと美貌を兼ね備えてきたと言うのに。

 こうして少年の着物を身に纏えば、いとも簡単に教養の無い、ただ上のものに忠実なだけの少年に成り切ってしまう。
 身に纏う雰囲気さえ、どこか別人のようですらあった。

 さすが、と褒めればよいのか。
 いい加減にしろ、と叱ればよいのか。

 龍星とて迷うところではあったが、人目があればそのどちらも選ぶことは適わなかった。
 毬も龍星と目を合わせないよう、視線を下へと向けている。


 龍星はその横顔を盗み見るが、毬が何をたくらんでいるのか正直想像もつかなかった。