顔にかかる吐息は、熱を帯びている。

「良かった。また、君が逢ってくれて」

 瞳を閉じた雅之の顔が、触れそうなほど近づいてくる。
 甘い感覚が胸の奥から溢れそうになって、毬は戸惑う。

「……えっと、なんていうか……
 大袈裟……なんですけど」

 我に返って、顔をそむける。
 しかし、雅之はひるむ様子も、気分を害したようでもない。
 むしろ、口元には余裕を携えた笑みを浮かべていた。

「怖がらなくて大丈夫。ね?」

 毬の言葉には耳を貸さず、雅之はその広い胸に彼女を柔らかく抱き寄せた。

 あまりにも突然の展開に、毬は眩暈にも似た混乱を覚える。
 幼い頃、わけあって都を離れ田舎で暮らし、男の子といえば一緒に野山を駆け回る「友達」でしかなかった彼女には、この急展開をすぐに受け止めることは出来なかった。

「ええっと……
 あの、笛を教えてくださるのよ、ね?

 こうしていたら、吹けないわ」

 身体を捩ってみようとするが、抱きすくめられて微塵も動けない。

「お願い、離して!!」

 叫んだつもりが、囁き声にしかならなかった。

「何?姫」

 雅之は優しく微笑んだまま、その耳元を毬の口元へと近づけてきた。