「忘れたか、雅之。
 あの男は、千の為に都中の桜を焼き払うとまで言う奴だぞ。
 思い込んだら一直線というか、なんというか。
 一度は諌めてみたが、聞く耳を持たぬ。
 あれで、行動力が人一倍あるから余計にたちが悪い」

 龍星は憂いを隠さぬ表情で天を仰いだ。
 宝石を撒き散らしたかのように輝く星が点在している。

 見ようが見まいがいつもそこに星はあるように、見ようが見まいが天皇家は燦然と存在し、権威を翳し続けているのだから、目を背け続けるわけにもいかぬだろう。

 そんな考えが龍星の中を流れていく。


「では、どうするつもりだ?」

 しばし訪れた沈黙に、雅之が眉間に皺を寄せる。
 人のことであっても、我が事のように心配できる男なのだ。

 龍星は視線を戻すと、涼しげな目元で微かに笑ってみせる。

「まだ、なんとも。
 まぁ、毬も元気になったらここで一人で留守番などするまい。
 新たな火種を二つ抱えるよりは、一つにまとめたほうが良いと思ったまでさ」

「そういうものか?」

 話の全貌が全く見えない雅之は納得のいかない顔で酒を啜る。

「そういうものさ」

 龍星は力強く返答を返し、酒を啜った。



 夜闇が、ますます濃くなっていく。