「俺、帰ろうか?」
戻ってくるとすぐ、雅之が言う。
龍星は紅い唇を歪めて笑う。
「そんなに気を使わなくて結構。
それより、俺に話したいことがあるんだろう?」
龍星の方がずばりと切り出す。
最近では、用もなく雅之が安倍邸を訪ねることは滅多になくなっていたのだから、想像に難くないことなのに、雅之は目を丸くして驚いている。
「さすが、千里眼だな」
龍星はそれには答えず酒を仰いだ。
雅之は言いづらそうに頭をかき、形の良い唇を開く。
「唯亮(ただあき)殿に相談されたのだ」
「高階の?」
「そう」
高階唯亮は、右大臣高階定成の長男だ。
今は近衛府(このえふ)で働いており、雅之の部下にあたる。
「もちろん、今回の事件に右大臣家は無関係だ……そう言ってきたのだ」
「まぁ、そうだろうな。
俺も右大臣家は無関係だと考えている」
「それで、家の名誉のためにも是非事件解決に協力したいから、龍星にお目通しを頼んでくれぬかと言われて」
龍星はふわりと笑った。
龍星が事件解決のため左大臣家に呼ばれていることは既に知れ渡っている。
犬猿の仲にあるものの味方に協力したいと言い出すとは。
裏があるか、はたまた、何も考えていないか。
「それはまた、父上に似ず無鉄砲な性格なのだな」
「そうなんだよ。
若さゆえか、感情で突っ走ることが多い子でね。
どうもこう、他人事とは思えず……」
素直に唯亮に共感することがあるのだろう。雅之が口篭るので、龍星は楽しそうに酒を煽った。
戻ってくるとすぐ、雅之が言う。
龍星は紅い唇を歪めて笑う。
「そんなに気を使わなくて結構。
それより、俺に話したいことがあるんだろう?」
龍星の方がずばりと切り出す。
最近では、用もなく雅之が安倍邸を訪ねることは滅多になくなっていたのだから、想像に難くないことなのに、雅之は目を丸くして驚いている。
「さすが、千里眼だな」
龍星はそれには答えず酒を仰いだ。
雅之は言いづらそうに頭をかき、形の良い唇を開く。
「唯亮(ただあき)殿に相談されたのだ」
「高階の?」
「そう」
高階唯亮は、右大臣高階定成の長男だ。
今は近衛府(このえふ)で働いており、雅之の部下にあたる。
「もちろん、今回の事件に右大臣家は無関係だ……そう言ってきたのだ」
「まぁ、そうだろうな。
俺も右大臣家は無関係だと考えている」
「それで、家の名誉のためにも是非事件解決に協力したいから、龍星にお目通しを頼んでくれぬかと言われて」
龍星はふわりと笑った。
龍星が事件解決のため左大臣家に呼ばれていることは既に知れ渡っている。
犬猿の仲にあるものの味方に協力したいと言い出すとは。
裏があるか、はたまた、何も考えていないか。
「それはまた、父上に似ず無鉄砲な性格なのだな」
「そうなんだよ。
若さゆえか、感情で突っ走ることが多い子でね。
どうもこう、他人事とは思えず……」
素直に唯亮に共感することがあるのだろう。雅之が口篭るので、龍星は楽しそうに酒を煽った。


