砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「大丈夫って言ってるのにっ」

 無理やり寝具の上に連れて来られ、毬は頬を膨らませる。

「確か十日前もそう言ってたね。
 それを信じたら、毬が倒れたんだよ」

 確かに、最初は貧血に襲われたような気もする。

「もう、十日も前のことなんて忘れちゃったわよっ」

 拗ねた毬はぷいと顔を背けた。
 龍星はそんな戯言には付き合う気がないらしく、いつもと変わりなく優しく髪を撫でる。

「そう?残念だな。
 あの時毬にあげたお守りのことも、もう忘れちゃった?」

「そ、それはきちんと持ってるわ」

 毬は首元に手をやろうとする。龍星はそれをそっと止めた。

「いい、そのままにしておいて」

「もしかして、お父様のことがあったから、私にお守りを?」

「まぁ、それもあるかな」

 龍星は語尾を濁す。
 既に十日前には左大臣家の呪詛事件は明らかになっていたのだ。

「どうして教えてくれなかったの?」

 毬が身体を起こして問う。責める口調に聞こえなくもなかったが、龍星はそれを受け流し、ただ真っ直ぐに毬を見返した。凪いだ湖面のように、穏やかな優しさに満ちた、瞳で。

「教えても、無駄に気を揉むだけだ。
 それよりも、毬がきちんと体力を戻し、この件を解決してから後日談だけ聞かせようと考えていたんだ」

 龍星の優しさがふわりと上質な衣のように毬を包み込む。
 それは、とても心地よくて贅沢で、ほんの少しだけ窮屈だ。

「……分かったわ。
 ありがとう、龍。
 今日はもう休むね」

 毬は素直に言うと、いつものように触れるだけの唇付けを交わして一人、寝具の中へと潜り込む。
 龍星は「ゆっくりおやすみ」と、耳に心地よい甘い声で言い、毬の寝息を確かめた後に静かに部屋から出て行った。