砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

 ふう、と、龍星は端正な顔に影を落とす。
 時折気まぐれに吹く風が、真夏の夜に思いがけぬ涼をもたらしてくれる。

「雅之はこの度の事件、どのように耳にしている?」

 思わず話を振られた雅之は、目を丸くしつつも、真剣に記憶を辿る。


「あくまでも、ただの噂話だぞ」

 前置きをしてから話始める辺りがいかにも雅之らしい心配りだ。

「あれは夏の暑さ厳しい日のことだったそうだ。
 左大臣藤崎殿は法泉寺(ほうせんじ)へお参りに行かれた」

 法泉寺といえば、現左大臣藤崎行近(ふじさきのゆきちか)が千の入内(にゅうない:帝と結婚すること)を祈念して建立した私寺である。

「いや、正確にはお参りされようとしたのだ。
 しかし、そこに入ろうとするのを飼い犬が必死に止めた」

「白はそんな犬ではないわ」

 たまりかねた毬が思わず口を挟む。

 雅之は優しく笑う。

「そうなんだってね。至極躾の行き届いた温厚な犬が必死に止めるので、さすがの左大臣殿も何かあると感じ寺を隈無く調べさせたそうだ。
 そしたら、呪符が見つかった。
 白のお手柄だったという話さ」


 一息に話し、雅之は杯を呷る。