「先日起きたとある事件に、陰陽師が関わっていたという噂があるんだ」

「その事件っていうのがお父様に関連してるのね」

「……まあ、そんなところかな」

 雅之は本当に嘘が下手だ。困った時の癖で、頭を掻いている。

「龍星はあの若さで、陰陽頭だから、部下の中に裏切り者がいるのではないかと、疑われて苦しい立場に追い込まれているのかも」

「陰陽頭って?」

「御所勤めの陰陽師らを率いる陰陽寮の中で一番偉い立場ということ」

 さらりと言われて、毬は面食らう。

 龍星のことは凄いと聞いていたが、まさか、最高峰に位置するとまでは思っていなかった。

「龍星って本当にすごいのね」




「そうでもないさ」

 背中から声が聞こえて、慌てて振り返る。

「龍」

 余計な情報を耳にして龍星を見ると、一層魅力的に見えてしまう。

「毬、体調はどう?」

 心配の言葉をかけられるだけで、胸がキュンと疼く。

「大丈夫、心配かけてごめんなさい」

 龍星は、いつになくしおらしく詫びる毬の髪をそっと撫でた。