雅之は根拠のない噂で、いたずらに毬を動揺させることをよしとしない。
 どれほどしつこく尋ねても、やんわり流されてしまい、ついに毬はため息を呑んで追及を諦めた。

「いいわ。龍星から直接聞くことにする」

 雅之がほっとしたのも束の間。

「では、あの提案をどう思う?」

 毬の質問には遠慮がない。

「毬はどう思う?」

 雅之は問い返すことで返答を避ける。

「事情が分からない部分を差し引くとしても、強引で一方的過ぎるわ。
 それに、私には無理だと思うの。とても務まる自信が無いわ」

 毬は本音を吐露した。
 それから、がらりと話題を切り替える。

「龍星はどうして私を嵌めたのかしら?」

「嵌めたなんて言ったら、龍星に悪い」

 雅之はさらりと親友を庇(かば)う。

「それに、噂なら……聞いたけど」

「その噂はさすがに本人には聞けないでしょう?
 ねぇ、それだけでも教えてちょうだいな、雅之」

 馴染みの姫に子猫のように可愛らしく迫られると、さすがの雅之も嫌だ嫌だとばかり言い続けるわけにもいかず、お茶を一口飲んでから、ついに話し始めた。