「ありがとう。
 お土産なんて無くったって、雅之のことはいつだって大歓迎よ。あがって」

 最近、過保護度合いが急上昇した龍星が、この屋敷の周りに特別な結界を張っていて、限定した人しかあがりこめないようになっているので、雅之が【偽者】ということもありえなかった。

 少しは温度の下がった中庭の見える縁側に腰を下ろし、華が用意してくれた冷たいお茶を飲みながら、会話を交わす。

「雅之は、今日のこと事前に知ってたの?」

 毬が気になるのはそのことだ。
 罠に嵌められたのは自分だけだったのか。

「いや。残念ながら俺も蚊帳の外だった。
 特にあの件は、今日まで知らなかったよ」

 ご懐妊、という言葉は使わず、雅之がきっぱりと言いきる。
 毬もそれを疑おうとは思わない。

「そうなのね。
 ではもう一つのお父様の件は?」

 その質問に対しては、雅之は言いづらそうに口篭った。
 嘘のつけない実直な男の、眉間にしわがぎゅっと寄る。

「噂では、まぁ、耳にした」

「何があったの?」

「龍星のほうが詳細を語れると思うから直接聞くと良い。
 俺が耳にしたのはただの風の噂でしかないから」

 好奇心を隠さない毬を、雅之はやんわりと制止した。