夕方、涼しくなり蝉の声もようやく止んだ頃。

 安倍龍星邸に、雅之が訪ねてきた。

「龍星なら、まだ帰ってきてないわ」

 一足早く御所から家へと送り届けられた毬は、不機嫌なまま対応する。

「そうだと思った。
 ……一緒に帰宅を待っても構わないかな?」

 雅之が遠慮がちに問う。
 御所では一言も口を聞かなかったので、毬が雅之とまともに会話を交わすのは実に10日以上ぶりのことだった。

「もちろん、毬にもお土産を持ってきたよ。
 本当はお見舞いとして渡そうと思っていたんだが……」

 言うと、可愛い化粧箱に詰められた干菓子を渡す。
 箱を開けてみて、その色とりどりの干菓子の可愛さに毬はとたんに頬をほころばせる。