「……災いって、何?」

 毬は口を開かずにはいられなかった。

 ほら、罠にかかった、という薄ら笑いが帝の口端に浮かんでいる。
 龍星は目でそれを捉え、諦めて口を開く。

 こうなることは容易に想像がついてはいたが、それでも、この罠にかかるほか無かった自分が心底歯がゆい。

「長い話になりますので、後でゆっくり」

「そうだな。
 白(シロ)がいかに左大臣を救ったか、その武勇伝を耳にすると良い。
 きっと気持ちは変わるであろう。
 返事は明日、龍星が届けてくれれば良いぞ」

「期間は」

 毬は半ば諦めたように問う。

「御子が無事に生まれるまで」

 帝は投げ捨てるようにそういうと、話は終わったとばかりに立ち上がる。

 龍星は無表情のまま結界を解く。



 白。
 自邸で飼っている愛犬の名前だ。
 大きく、白く、人懐っこい柴犬の姿が毬の脳裏に浮かんでいた。