毬は足早に歩きながら、桜の花びらを先日龍星からもらった護符の間に挟んだ。
 
 見目麗しく、優しい人。

 毬には、自分の胸が高鳴っている理由こそ今一つわかっていなかったけれど、それでも、龍星から手渡された桜の花びら一枚が、とても大切に感じる気持ちには気が付き始めていた。



「お待たせしました」

 楓には、控えなくて良いと伝え、一人で部屋へと入る。


 毬は、一歩入ったところで、やたらと空気が重いのを感じた。
 外は明るかったのに、部屋はとても薄暗い。



「先生、先日のご無礼深く反省してますわ」


 しおらしく、雅之の背中に声を掛ける。


「気になさらないで、姫」

「ではまた笛を教えてくださるのね」

「もちろんですよ。姫に会えなくなるなんて辛すぎますからね」



 雅之は振り向きもせずさらりと、熱烈なことを言う。



「どういう、意味ですか?」



 毬は、恐怖にも似た違和感を感じて思わず後退った。