麗らかに春の日差しが舞う庭で、毬はうたた寝をしていた。
 桜の香りが鼻孔をくすぐる。

「姫様!何をされているのですかっ」

 悲鳴にも似た声に、現実に引き戻されて瞳をあける。
 廊下にいる楓が、真っ青な顔でこちらを見ていた。

「どうしたの?」

 毬は桜の樹枝に腰掛けて眠っていたのだ。女房が青くなるのも無理はない。

「ら、来客が……
 いえ、その前にまずはそこから降りて頂かないと……」


 驚きのあまり、腰を抜かしかけている楓の言葉は要領を得ない。



「毬姫、こちらでしたか」

 聞き覚えのある甘い声に視線を移す。
 そこには、穏やかに微笑む龍星がいた。


 あの、と毬が何か言おうとするのを制して、龍星が口を開く。


「初めまして、毬姫様。安倍龍星と申します。今日は雅之殿の付き添いで参りました」


 童よろしく、桜の木の上に居るというのに、まるで大人の姫にでも接するかのように丁寧に頭を下げる龍星の姿に、毬の心臓はトクンと跳ねた。