「今日は一人かい?」

 馬主の翁に言われて、毬はこくりと頷いた。


 御所を飛び出した毬は、気付いたら東河の近くの馬舍に来て、外から馬を眺めていた。

「そうしていると、一層お姫様だね」

 翁は毬の豪奢な着物を褒める。

「でも、これでは馬に乗れないわ」

「そうでもないよ。とはいえ、まあそんなに素敵な着物が汚れるのも困るか。
 着物、貸そうか?」

「いえ。今日は見るだけで……」

「そう?
 ではこちらにどうぞ」

 毬は翁に誘われるがまま、着いて行く。

 そこでは思いがけず雅之が流鏑馬の練習をしていた。
 馬に乗って、弓を構えて的を射る。

 真剣な眼差し。
 肌けた着物。
 しなる筋肉。
 風を切る矢。

 ビュン、と派手な音がして矢は惜しくも的を外す。


 雅之はもう一本矢を取ると、今度は右から左に馬を走らせ矢を放った。


 ビュン。


 次はギリギリ的の端に当たった。
 しかし、雅之は満足することもなく再度弓を構える。

 鋭い視線は、獲物を狙う鷹のごとく、的だけを強く見つめていた。