砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「申し訳ございません」

 毬は痛々しい心の傷を思い出し、俯いたまま詫びた。

「姫、どうか顔を上げて」

 帝の頼みに毬は伏せていた顔をゆっくりあげた。
 感情を押し込めようとぎゅっと手を握るが、堪えきれない分が一筋の涙となって頬を伝う。

 毬は慌てて頬を拭った。

「別に覚えてないことを責めているわけではない」

 帝の言葉に、毬は切ない笑みを浮かべた。

「存じております。
 ただ、あの頃私は兄を亡くして少々取り乱しておりまして。
 ご期待に添える返事が出来ずに申し訳なくて」


「……そうか。残念だが仕方がないな。
 これ以上泣かせると龍星から殺されそうだから諦めるよ。
 あなたが、いつか、記憶が戻ることがあれば昼夜問わず、いつでも文を寄越すと約束してくれるのであれば、だが」

 帝は立ち上がり、毬の傍に近づいた。
 誰が止める間もなく、その腕に毬を抱き寄せる。


「嵐山で共に遊んだ日々は、私の人生の中で一番輝いている」

 毬だけに聞こえるようそっと囁くと、その黒髪に唇を落として手を放した。


「「帝っ」」

 別々の理由で動揺している龍星と千の声が重なる。


 帝は動じることもなく、むしろ不敵の笑みすらその口元にうかべ、
「帰る」
 と言い、お付きの者を呼び寄せ大殿へと帰って行った。


 呆気にとられている三人を置いて。