砂糖菓子より甘い恋【加筆修正ver】

「姫は本当に知らぬことばかりなのだな」

 唐突に、帝が真っ直ぐ毬の瞳を見つめて言う。
 毬はその勢いに、戸惑い、驚いて瞳を伏せた。

 一匹狼を思わせる瞳は、孤高の輝きを帯びていた。
 細い顔、意志の強そうな濃い眉。

 他からの反論を微塵も受け付けない凛とした声で問う。

「嵐山での日々、本当に覚えておらぬのか」
 と。

 毬はぎゅっと唇を噛み締め、眉間に皺を寄せる。




 存在自体が眩しく羨ましい。そんな兄がある日突然姿を消した。

 母もそうだが、毬もまたその現実を受け止められずにいた。


 自分の方が消えるべきではなかったか。
 姫になりきれない、中途半端な存在。


 そんな自分が疎ましくなり、ほとほと愛想がつきかけたある日。




 このまま、消えてしまいたい。

 と、

 崖の上から飛び降りたところで、毬の記憶は潰(つい)えていた。