「辛い、苦しい、殺してやる……か?」

 突然の龍星の言葉に、雅之は跳ね上がった。

「何故知ってる?」

 龍星は種を明かさずくすりと笑う。

「物の怪の言葉なんて、だいたいどれも似たり寄ったりだろう?」

「いやあ。さすが龍星だなあ」
 と雅之は、しきりに感心していた。

「いや、むしろ俺は、おまえがあの生き馬の目を抜く宮中で働いていることの方がよほど凄いと思うぞ」

 龍星は疑うことを知らない雅之の言葉を耳に、愉しそうに酒を仰いだ。

「雅之、その笛を今持っているか?」

「ああ、あまり龍星を巻き込みたくないんだが」
 といいながら、雅之は懐から毬の笛を取り出した。

 どうやら、自分が龍星に巻き込まれたとは夢にも思ってないらしい。
どこまでも愚直な男だ。

 龍星はこみあげる笑いを抑え、素知らぬ顔で笛を受け取る。
 見たところは何らかわらぬ笛だ。が、確かに微量の妖気を帯びていた。

「左大臣のところにはいつ行くのだ?」

「明日だ」

「俺も同行しよう」