「確かに、笛はすぐには音が出ないことを初めに教えなかった俺も悪かった。
 だから、姫には次に行くまでに雅楽を続ける気があるか考えておくように言い、笛を預かって帰ったさ」

 言って、雅之は酒を嘗める。

 もちろん、だからと言って雅之はすべてのことを投げ出したわけではない。

 笛というのは、そもそも最初が肝心なのだ。最初に名手が吹きこめば、その笛には良い吹き癖がつく。雅之はあれから毎日、時間があれば、良い笛になるようにと毬の新しい笛に命を注いでいたのだ。誰に言うこともなく。




 黙ったまま、さして手入れもしてない庭に幾度も目をやる雅之の表情は、何かを躊躇う顔だった。
 親友の端正な顔が陰欝に陰っているのを見かねて、龍星が唇を開く。


「また、物の怪にでも憑かれたか」

 雅之はなぜか、物の怪を引き寄せる。


「そうなのだ、龍星よ」

 雅之はため息をつく。


「その笛を吹くたびに聞こえるのだよ。微かな呪いの詞が」