「最後に一緒に蛍を見た。俺があれを死者の魂だと言ったら、お前は酷く怯えていた。

 嵐山でのあの日々を本当に覚えていないのか?」

 その声は、どこか落胆したような、切ない響きを帯びていた。

「嵐……山」


 毬は、その声の主に申し訳ない気持ちになって、記憶を辿ろうと目を閉じる。
 けれども、やはり、記憶はない。


「人間違えでなく?

 こちらからは、全然あなたが見えないので」

 毬はゆっくり話す。

「その声、間違えるはずがない」


 霞の中からゆっくり人影が近づいてくる。

 
 毬はもつれた記憶の糸を懸命にほどきながら、じっと目を凝らした。