「そんなことより、雅之っ、どうしよう。龍、大丈夫かなあ?」

 検非違使を見送った毬は急に我に返り、不安そうな声で聞いた。
 なにせ、今は建物への出入りが全くできない上に、中の状況さえ把握できないのだ。


「龍星が出るように言ったんだろう?大丈夫だよ」

「でもっ」

 毬は今にも泣きそうな顔で屋敷の周りを探しまわっている。

「一応、凄腕の陰陽師だよ。信じてやって」

 雅之が毬の肩を掴む。

「でも、過信するのは良くないわっ」

 雅之は真っ直ぐ毬の瞳を見る。温かく実直な眼差しで言葉を紡ぐ。

「毬は妖怪と戦える?」

 毬は力なく首を横にふる。

「じゃあ、今出来ることは龍星を信じて待つことじゃないかな?」

「でも、雅之は心配じゃないの?」

 ついに、毬の瞳に涙が滲んだ。

「俺は龍星を信じてる。必要になったら絶対俺を呼ぶってね。だからいつでもそれに応じられるように、気持ちを落ち着けているんだ」

 雅之の言葉に毬は慌てて涙を拭う。


 雅之はポンと優しく毬の頭を叩いた。