「雅之っ」

 検非違使を連れて戻ってきた雅之に、毬は泣きそうな声をあげた。

「どうした?」

 馬から颯爽と飛び降りた雅之が問う。

「龍が外にっていうから出たんだ。
 そしたら、入り口が消えた――」

 毬は言いながらも信じられなくて半ば茫然としていた。


「遠原殿、やはりこれは我らの領域ではございますまい」

 馬に乗ったまま検非違使が言う。雅之より年上のがっしりした男だ。

「しかし……」

「屋敷に入れないのでは調べようもありません。また、入れるようになったら改めて連絡下さいますよう、安部殿にもお伝えください」

 とりつくしまもなく、検非違使は引き返していく。

「都を守る気があるのかしら」

 去りゆく検非違使の背中を見ながら毬はため息をついた。