「この護符のせいで、――私のせいで、陰陽師様が眠れなくなる、ということはないのですか?」

 それは、龍星の想像をはるかに超えた質問だった。
 真っ直ぐな、心配そうな色を隠さない毬の瞳が、龍星の胸に突き刺さる。


 今まで、それこそこのような護符の類は数えきれないくらい多くの人にあげてきた龍星だったが、喜ばれこそすれ、己の身の心配をされたことなど一度もなかった。皆、陰陽師は不死身くらいに思っているのだ。

 だから、こうも真っ直ぐに心配されると面食らう。

 
 龍星は毬の瞳を覗きこんで、ことさら優しく囁いた。
 それは、彼が意図したものでなく、不意に出てきた甘く優しい声音。

「ご心配には及びません。
 私もきちんと眠りますから、姫もゆっくりおやすみなさい」


 それは暗示だったのか。
 毬は龍星の胸に崩れ落ち、一瞬にして眠りに落ちていった。



 都は、短い夕刻を終え、急速に夜の闇へとその色を変えつつあった。