寒い冬が過ぎると、京の町には淡い桜が咲き誇る。皆がうっとりとそれを眺める中、安倍龍星(あべのりゅうせい)は、憂鬱そうに牛車に揺られ、左大臣の家へと向かっていた。

 ことの始めは一週間前。

 なんだかんだと言い訳をつけてしばらく足を向けなかった御所へ、強引に連れ出されたことから始まっていた。

 その前日。
 龍星の数少ない友人、遠原雅之(とおばらまさゆき)が、京の端にある彼のあばら家へとやってきた。

 雅之は弓の腕と笛の腕は京で随一と言われる、将来有望な男だ。それなりの家柄に生まれ、宮仕えをしている。
 一方龍星は、あの安倍晴明の血を引く呪術師だった。


 腕のよさはたいしたものだが、それゆえに敬遠されてもいた。