記憶のキロク

 ロビーを通るとブラウン管の中で、

 若い男性のアナウンサーが、最近起きた出来事について話していた。

「――毒物混入事件の当事者辺見被告に死刑が言い渡されました」

「え…………そ、そんなの酷いよ。おかしいよぉ」

 いきなり泣き出した春風ちゃんを前に、おろおろするしかない俺って、情けない……

「具合悪くなったの? それなら、看護士さんを呼んでくるけど」
 
 ふるふると首を横にふり、否定の意思表示をする春香ちゃん。

「だれだって、死にたくないのに。死んだら周りの人が悲しむのに。死刑だなんて、ひどいよ。あんまりだよ」

 他人。

 それも犯罪者に言い渡された死刑で春風ちゃんはここまで、泣いている。

 それが、分かったからこそ、春風ちゃんの言葉を聞いて、誰も何も言えなかった。