『これはこれは 珍しいね…』
呼吸ひとつ 年老いた影は目を閉じる。
『こんなにも 星が降らないなんて。』
『ホシ とは?』
『生ける誰かが叶わないと知りつつ願いをかける石ころのことさ。』
『何故石に願う?』
その問いに 年老いた影は微笑む。
『石ころが綺麗だと思うからさ。』
『その石は何処にある?』
年老いた影は 先が見えぬ遠くを指す。
『君の行く先 そこには無いよ。』
『その石に価値はあるのか?』
『君が望めば。』
その言葉に首をふってみせる。
『生憎 ただの石ころと思う。』
それを聞いた年老いた影は柔らかく笑う。
『覚えておくといい。望むということは変えられないということ 価値とは変わるということを。でも』
『?』
『石を哀れんではいけないよ。石は哀れみそのものだから。さあ行きなさい 君には進む先がある。』
『よくわからないが 最後に。その眼には何が映る』
『これ以上はなにも見えないし 何も映らないよ。満足している。満足していることに後悔さえない。行きなさい。』
『わかった。』
『星が降らない夜に 君のような影を見つけられて良かった。』
年老いた影は最後に そう呟いた。
