星の軌跡



『うるせえ…うるせえよ…。また、壊しちまった…』

夜盗はそれ以上何も言わなかった。
僕はコンクリートに散らばったリュックの中身と、粗く砕けたそれをしまう。
ふと葬花屋に貰った黄色い花がポケットから落ちていたことに気づく。
拾いあげ夜空にかざしてのあいつと横に並べ比べてみる。

何て、綺麗なんだろう。

腕をおろすと今度は俯きしゃがみこむ夜盗と重なった。

『……………………』

僕は夜盗の前にその花をそっと置く。
『………………何のつもりだ。』
低い低い声で呟く。
『僕にとってこれは、ただの花だから。』
『……俺は花と思わないぞ。』
『多分、それで合っている。』
『………………………』

僕は重いリュックを背負い、夜盗の横をすり抜けた。
振り返るがやはり夜盗が動く気配はない。
少し長い息をつきまた裏路地の出口を目指し始めようとした時だった。

『昔は…』
『……?』
『昔は見えたんだ……数え切れない、拾いきれない程…たくさんの…………』
『…………………。』

ニャアと小さく猫が鳴く。
あの花は、まだ君にも見えるだろうか。
小さく口を結び少しの間夜盗のその背中を見つめていた。