「ベンチには、いつからいたの?」
「記憶にございません。でも
その少し前の記憶なら
ありますよ。」
「何よ。」
「防空壕の中にいました。」
防空壕…。どこかで聞いたような。
だけど、俺も悟もピンと来ない。
「玲奈、防空壕ってなんだっけ?」
「そんなことも知らないの?
防空壕っていうのは、日本が
戦時中のとき、爆弾を防ぐため
などに掘られた穴よ。」
「戦時中?そうか。
第二次世界大戦だったっけ?」
「そうよ。丁度学校の授業で、
やっていたじゃない。日本と
アメリカの戦争を太平洋戦争って
言うんだけど。」
玲奈の説明を聞いて、俺と悟は
やっとわかって、すっきりした。
防空壕なら、まだどこかに跡地が
あるはずだ。
「マチさんって、もしかして
世に言う歴女?」
「防空壕の跡地を観るのが好きなの?」
「歴女?跡地?なんのことです?」
「だって今時防空壕にいるなんて、
昭和時代じゃあるまいし…」
玲奈が、“昭和時代”と言ったとき
マチさんが、クスッと笑った。
「何言っているのですか。
今は昭和時代じゃないですか。」
「…マチさん、何言ってるんだ?」
「どうせ頭でも打ったんじゃないの?」
「お、おい、玲奈!」
「ふん」
またもや、玲奈が水を差す。
さっきから、玲奈の言動には
ひやひやさせられる。
マチさんも、玲奈に言われて
負けじと言い返した。
「私は至って正常ですよ。
今が昭和時代じゃなければ、
何時代だっていうのですか。」
「いや、だって今は平成時代だし…。」
「そうよ。昭和時代なんて
24年前に終わったじゃない。」
玲奈の言葉を聞くと、
マチさんは、その場で
凍りついた。


