「ちょっと、何抱きついてるのよ!」
「いいなあー望。」


抱きつかれている俺を見た
二人は、そう言い続ける。
気まずい空気に耐えられず
俺は、この女に言った。


「あの…離してくれませんか?」


そう言われた女は、俺の顔を
まじまじと見て、目を丸くし、
パッと手を離した。


「達宗さんじゃない…!」
「俺は達宗じゃないです。
 望です。坂下望。」
「とんだ御無礼を…本当に
 申し訳ありません。」
「いや、いいですけど。
 ところで、君は?」


女は、立ち上がって丁寧に
自己紹介してくれた。


「私は、マチと申します。
 川島マチです。」
「マチ?真知子さん?」
「ふふふ。マチですよ。
 カタカナでマチです。」


驚いた。今時、“マチ”だなんて
名前の人を聞いた事がない。
昔の人の名前のようだ。