「今夜のところは、ひとまず、退散する」
「また来てくれる?」

背後からのその言葉に、男は肩越しに、ベットで半身を起こしている少女を見た。

「怖くないのか、俺が?」

またの約束をねだる少女の声に、男の胸には喜びが満ちていくようだった。


その魂は。
我を忘れずにいてくれたのか?


そう問いかけて、その細く小さな体を、男は力の限りで抱き締めたくなった。

「森のにおいがしたから、こわくない」

凛とした声で、少女はそう男に答えた。


森の匂いか。


少女のその言葉に、男はにこりと笑って見せた。

「また、いつかな。会いに来るよ」

男は、また静かに跳ね跳んで、テラスの手すりに立った。


会いに来るのは。
また、いつか。
毎晩。
こんなふうに訪ねていたら。
家人がその異変に気づいてしまうに違いない。
下手に警戒されては。
面倒だしな。


この屋敷に、不審がられず入り込める手立てを考えなければならないなと、男はこれからのことを考えた。