朱夏から何かを聞き、先のことを先代当主は知っているのかもしれない。
その場に居合わせた者たちは、皆、そう感じたようだった。

そして、先代当主の四十九日の法要が済むと、朱夏は数人の使用人とともにこの屋敷で暮らすことになった。
先代当主が懸念したとおり、朱夏の両親は、朱夏を家から遠ざけようと画策したからだった。

カフェが建てられた土地も、この屋敷がある土地も、登記上では同じ人物の所有地だということまでは、調べがついたのだが、その人物についてはどれだけ調べても何も判らなかった。
カフェの主ならば、あるいは何か知っているのではないかと訪ねたことが、結果的に、それが渡辺たちがカフェに顔を出すようになるきっかけとなった。

センと名乗った若い男は、得体の知れない不思議な雰囲気を纏っていた。
見た目ならば自分よりも若い見えるが、内面的には妙に達観し老成している部分があった。

この土地の所有者なのかと尋ねれば、自分は雇われ店長だと答え、詮索するなと先代さんに言われてるだろうと、にたりと笑った。
渡辺が知らない何らかの事情を知っているのは明らかだが、それを話すつもりはないと、その顔は告げていた。
凄む渡辺など鼻先で笑い飛ばし、飄々としているセンと名乗った青年に、どうしたものかと渡辺は険のある表情で思案していると、センが携帯電話の番号を教えてくれと言い出した。