先代当主から、そういう者が稀にいると聞かされてはいたが、実際に会ったことは一度もなかった。

そのころの朱夏は、まだ力の使い方を制御することができず、目が合えば視たくなくとも人の先を視てしまっていた。
だからこそ、視えなかったいう朱夏の言葉は、渡辺には衝撃だった。

カフェ自体、今でも渡辺にとっては不思議な存在だった。
いつの間にか、そこに建っていた。そして、センと名乗る青年が住み着きカフェを始めていた。

朱夏が暮らすこの屋敷も、朱夏の生家、阿倍家が所有している屋敷ではない。先代当主が、自分亡きあとの朱夏の身を案じて、古き知人から借り受けた特別な屋敷なのだと言う。


‐もし、息子夫婦が朱夏をどこかに追いやろうとするのなら……
‐この屋敷に朱夏を連れてくるように
‐ここが誰ぞの屋敷かなどということは、詮索するな


亡くなる数日前。
先代当主は、これより先に起こることを予期していたかのように、数人の腹心たちを引き連れてこの屋敷を訪れ、そう告げた。何故か、その腹心の中に父とともに渡辺も、一緒にいた。
先代当主はそう言いながら、自分を見ていた。あのとき、渡辺はそう感じた。