一願

‐お屋敷を出て外で食べているから
‐それだけで特別なものになるんじゃないですか


自分よりは年下であろう青年から、したり顔でそう言われた渡辺は、まさに虚を突かれた思いで、なるほどと納得した。

プリンが特別なのではなく、屋敷の外という状況が、朱夏にとっては特別なのだと納得した。
その言葉を水城に伝えると、水城もまたそうかもしれないと頷いた。
それじゃ、どんなに頑張っても、あのカフェのプリンは自分には作ってあげられないなと、少しだけ寂しそうに笑いながら、頷いていた。

それほどまでに、朱夏が喜んでくれるのなら、渡辺としても天気の良い日であれば、散歩がてらカフェまで朱夏を連れて行ってあげたいところだったが、それには問題があった。
屋敷を出てすぐの場所ですら、朱夏には歩いていく体力がない。
車で出るにしても、体調の悪い日では屋敷を出るまでに車酔いをしてしまい動けなくなってしまう。
そして、なによりも問題なのが、客がいる時間に朱夏を連れて行くことができなかった。

人の未来を視てしまったあとの朱夏は、指一つ動かすことすら辛そうなほど、体力を消耗してしまうことが多々あった。
ひどいときには、そのまま意識を失い昏睡状態になったこともあった。
そんな朱夏を見ている渡辺にしてみれば、不特定多数の人がいるカフェに連れて行くことなどできようはずもなかった。