朱夏は、生まれてたときから不思議な力を持っていた。
生まれたときに、それが判ろうはずがないだろうと、父からそれを聞かされた渡辺は訝しがったが、それを証明する証があったのだと父は言った。

その力を持って生まれた子どもは、朱い爪をしているのだと言う。
確かに、朱夏は生まれたときから朱い爪をしていた。

この家の血筋には、ときおり、こういう子どもが生まれるのだと、朱夏を抱き上げた先代当主、つまりは朱夏の祖父が重々しい悲哀に満ちた声で、渡辺の父を初めとする腹心たちに、そう告げたらしい。

そして、それは朱夏がたどたどしいながらも言葉を操れるようになると、すぐに事実として証明されることになった。

腹心の一人が、事故に遭うことを、朱夏は先代当主に言ったらしい。

人と目を合わせると、その人の未来が朱夏には視えるのだと、先当主代から、渡辺は聞いた。
視えるものは、それこそ五分後に起こる出来事から、数十年先のことまで、そのときそのときで違うらしい。

力の使い方をあるていど自分で制御できるようになってからは、強く何年後と念じて目を合わせれば、だいたい、その頃のことが視えるようになったと朱夏は言う。