「朱夏さま。おはようございます」

朝日を遮るカーテンを開けながら、まだまどろみの中にある朱夏に、渡辺は穏やかな声でそう言葉をかけた。
朱夏は伸びをするように体を伸ばして、朝日の中にある人影に「おはよう」と柔らかな声をかけた。

すっきりと撫でつけたオールバックの髪型に、黒いスーツで身を包んだその姿は、朱夏が子どもの頃から見ていた姿だった。

朱夏がこの屋敷で暮らすようになって、十年以上の時が過ぎた。
相変わらず、体は弱く、今でも熱を出しては寝付いてしまうことも多かった。けれど、幼かったころよりも、持って生まれ不思議な力を不用意に使って、無駄に体力を消耗してしまうことは少なくなった。だから、最近は気分の良い朝を迎えることも増えてきたわと、朱夏は喜んでいる。

そんな朱夏も、もうすぐ、十七才になる。

生まれたときには、二十歳まで生きられるかどうかと医師から危ぶまれていた命だったが、なんとか、この年まで過ごしてこられた。
それは、きっと、ここで自分を守ってくれている渡辺たちのおかげと、言葉にしたことはないけれど、朱夏はいつもそう彼らに感謝している。