一願

一度目は、先代当主が亡くなってすぐのことだった。
朱夏の側にいてやってくれと、夢の中で頭を下げられた。
もとより、その覚悟でいた渡辺は、夢の中でこの生涯を朱夏に捧げるとそう誓った。

二度目は、朱夏の弟が生まれてすぐのことだった。
悪しき者が訪れるかもしれぬと、夢の中でそう渡辺に警告した。
それから三日後。
物取り強盗が屋敷に忍び込もうとした。捕らえたその男の懐には短刀があり、すぐに警察に引き渡そうとしたが、朱夏の父から大事にしたくないと止められて、本家からきた男たちにその男を引き渡した。
その後、その男がどうなったのかとは知らされなかった。


先代当主は、
なんと言っていた？


思い出せと、乱暴な手つきで髪を掻き毟りながら、渡辺は必至に思い出そうとしたが、思い出すことができなかった。
穏やかな声で優しい目をしていたと、夢の中にいた昔の面影そのままの白いひげをたっぷりと生やした先代当主を思い出す。
悪い話ではなかったような、そんな気がした。